SELLING JOURNAL / 状況別
岡山で家を売る売主の手付解除|解約を申し出る・申し出られたときの考え方
代表取締役 土井 未来宅地建物取引士・2級FP・投資不動産取引士

民法では、買主は手付を放棄して、売主は手付の倍額を現実に提供して契約を解除できますが、相手方が契約の履行に着手した後はできません。売主が解約を申し出る場合も申し出られる場合も、まず契約書の手付解除の定めと期限、ローン特約や違約金の条項を確認し、判断に迷うときは弁護士に相談してください。
手付解除の仕組みを売主の立場で押さえる
民法第557条第1項は、買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができると定めています。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでないとされています。同条第2項では、解除しても損害賠償の請求を妨げないとする第545条第4項の規定は、手付解除には適用しないとされています。つまり手付解除は、手付の額だけで契約から離れられる仕組みで、原則としてそれ以上の損害賠償の話にはなりません。
売主の立場から見ると、場面は二つです。①売主から解約したいときは、受け取った手付を返すだけでなく、同じ額を上乗せした倍額を実際に差し出す必要がある、②買主から手付を放棄して解約を申し出られたときは、受け取った手付は返さなくてよいのが原則、です。
手付の意味や相場の決め方は購入側の解説で扱われることが多いのですが、売主にとって大切なのは、契約後に事情が変わったとき、どちらから、いつまでなら、どんな負担で解約できるのかを理解しておくことです。この記事は法律と税金に関する一般情報であり、個別の判断は弁護士や税理士に確認してください。
なお、手付には、契約の成立を示す証拠としての意味や、違約の際の扱いを決めておく意味なども考えられますが、民法第557条は、手付が交付されたときに、手付の放棄または倍額の提供によって解除できることを定めています。売買契約書に手付の性質や解除の方法について独自の定めがある場合は、その条項が優先されることがあるため、契約書の文言を必ず確認しましょう。
売主から解約を申し出たいとき(倍返しの負担)
売買契約の後に、住み替え先が見つからない、家族の事情が変わった、より高い条件で買いたい人が現れたなど、売主側から解約したくなる場面が考えられます。手付解除をする場合、民法の規定では倍額を「現実に提供」することが求められています。口頭で「倍返しします」と伝えるだけでは足りず、実際に支払える状態で差し出すことが必要と考えられているため、資金の準備も含めて検討しなければなりません。
仮に、売買代金2,000万円、手付100万円で契約していた場合を考えます。売主が手付解除をするには、買主に200万円を差し出すことになります。このうち100万円は預かっていた手付を返す部分なので、売主の手元から実質的に出ていくのは100万円です。受け取った手付をすでに住み替え先の頭金などに使っていると、200万円をそろえるのが難しくなります。また、仲介を依頼していた場合の報酬の扱いは媒介契約の定めによるため、別に確認が必要です。
さらに、買主がすでに契約の履行に着手している場合や、契約書で定めた手付解除の期限を過ぎている場合は、手付解除ができません。そのときの解約は違約金などの別の条項の問題になり、負担が大きくなることがあります。自己判断で買主に連絡する前に、仲介する不動産会社と弁護士に相談しましょう。
買主から解約を申し出られたとき
買主から手付を放棄して解約したいと申し出られた場合、売主は受け取った手付を返さなくてよいのが原則です。ただし、すぐに受け入れる前に確認したいことがあります。①売主側がすでに契約の履行に着手していないか、②契約書に定めた手付解除の期限内か、③申し出の理由が、住宅ローンの審査が通らなかった場合の解除など、契約書の別の条項にあたらないか、です。
売買契約書には、買主の住宅ローンが承認されなかった場合に契約を解除できる旨の定め(いわゆるローン特約)が置かれることがあり、その条項による解除では、契約書の定めにより手付を買主に返す扱いになっていることがあります。同じ「解約したい」という連絡でも、手付解除なのかローン特約による解除なのかで、売主が受け取るものが大きく変わります。
申し出は口頭で済ませず、どの条項に基づく解除なのかを書面で示してもらい、仲介する不動産会社を通じて内容を確認しましょう。解除が確定したら、次の買主を探すための販売再開の段取りや、引越し・住み替えの予定の見直しも必要になります。法的な判断が必要なときは弁護士に相談してください。
仮に、代金2,000万円、手付100万円の契約で、買主から期限内に手付放棄による解除の申し出があった場合、売主は受け取った100万円を返さずに契約が終わるのが原則です。一方、同じ申し出がローン特約の条件を満たす解除であれば、契約書の定めにより100万円を返すことになる場合があります。どちらにあたるかで100万円の扱いが逆になるため、確認を省かないことが大切です。
手付解除・ローン特約・違約金による解除の違い
契約後の解約には、いくつかの種類があり、根拠も負担も異なります。手付解除は民法第557条によるもので、理由を問わず、手付の額の負担で契約を解除できます。ローン特約による解除は、売買契約書の特約で定めるもので、条件や期限、手付の扱いは契約書の書き方によります。
もう一つは、相手が約束を守らない場合の解除です。民法第541条は、当事者の一方が債務を履行しない場合に、相手方が相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは契約を解除できると定めています。また第420条では、当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定することができ、違約金は賠償額の予定と推定するとされています。売買契約書で「違約金は代金の〇%」と定めるのは、この考え方に基づくものです。
解除されたときは、第545条により各当事者は相手方を原状に復させる義務を負い、金銭を返還するときは受領の時から利息を付さなければならないとされています。手付以外に受け取った内金などがある場合は、その返還の扱いも確認が必要です。どの解除にあたるかの判断は個別の事情によるため、迷うときは弁護士に確認してください。
| 項目 | 手付解除 | ローン特約による解除 | 債務不履行による解除 |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 民法第557条 | 売買契約書の特約 | 民法第541条・契約書の違約金条項 |
| 解除できる人 | 買主・売主のどちらも | 主に買主 | 約束を守られなかった側 |
| 売主の負担・受取 | 売主から:倍額を提供/買主から:手付を受け取ったまま | 契約書の定めによる(手付を返す扱いのことがある) | 違約金の定めなどによる |
| 主な制限 | 相手方の履行の着手後・期限後は不可 | 特約の条件・期限による | 相当期間を定めた催告が原則 |
「履行の着手」と手付解除の期限
手付解除の可否で最も争いになりやすいのが、相手方が「契約の履行に着手」したかどうかです。民法の条文は、着手した後は手付解除ができないと定めるだけで、何が着手にあたるかを具体的に列挙していません。売主が引渡しに向けて具体的な準備を進めた場合、買主が代金の支払いに向けて具体的な行動をとった場合など、個別の事情によって判断が分かれることがあります。
ここで気をつけたいのは、着手しているかどうかを問題にできるのは「解除される側」だという点です。条文は「相手方が」履行に着手した後はできないとしているため、たとえば売主自身が引越しを進めていても、それだけで売主からの手付解除が封じられるわけではないと読めます。逆に、買主からの手付解除を拒むには、売主側の着手を説明できる必要があります。
こうした争いを避けるため、売買契約書では「〇年〇月〇日までであれば手付解除ができる」と期限を定めることが多くあります。期限があれば、いつまでなら手付だけで解約でき、いつ以降は違約金の問題になるのかが明確になります。契約前に期限の日付を確認し、引渡しや住み替えの日程と合っているかを見ておきましょう。
期限の日付は、買主の住宅ローンの本審査の時期や、売主の住み替え先の契約日、引越しの予定などと照らし合わせて決めることになります。期限が短すぎると買主が契約をためらい、長すぎると売主が次の予定を組みにくくなります。どこで線を引くかは、物件の状況や双方の事情を踏まえて、契約前に仲介会社と相談しておくのが現実的です。
売主が宅建業者の場合の特則と、契約書面で確認できること
宅地建物取引業法第39条では、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約では、代金の額の10分の2を超える手付を受け取れないこと、受け取った手付はどのような性質のものであっても、買主は手付を放棄し、業者は倍額を現実に提供して解除できること(相手方が履行に着手した後を除く)、これに反する特約で買主に不利なものは無効とすることが定められています。この規定は不動産会社が自ら売主になる場合のもので、個人が自宅を仲介で売る場合にそのまま当てはまるわけではありません。不動産会社に家を直接買い取ってもらう場合も、売主は個人、買主が業者という関係になるため、この条文の対象とは立場が逆です。
個人の売主の取引では、民法の規定を基本に、売買契約書で手付の額や期限をどう定めたかが重要になります。仲介する不動産会社は、契約前の重要事項説明(同法第35条)で「契約の解除に関する事項」と「損害賠償額の予定又は違約金に関する事項」を説明し、契約成立後に交付する書面(同法第37条)にも、解除や違約金の定めがあるときはその内容を記載することになっています。これらの書面は、解約の話が出たときに最初に読み返す資料です。また同法第47条では、業者が手付について貸付けなどの信用の供与をして契約の締結を誘引する行為が禁止されています。
受け取った手付金に税金はかかるのか
買主の都合で手付解除され、売主が手付を受け取ったままになる「手付流れ」の場合、税金の扱いも知っておきたいところです。国税庁の所得税基本通達34-1(8)では、民法第557条の規定により売買契約が解除された場合に当事者が取得する手付金または償還金(業務に関して受けるものを除く)は、一時所得の例として挙げられています。
一時所得の金額は、国税庁のタックスアンサーの「一時所得」のページで、総収入金額から収入を得るために支出した金額と特別控除額(最高50万円)を差し引いて計算し、その2分の1に相当する金額を給与所得などと合計して税額を計算するとされています。さらに国税庁の質疑応答事例では、会社員の売主が買主の都合で解除されて手付金を取得した事例で、売買契約のために支払った仲介手数料を、一時所得の計算上控除できるとしています。
仮に、手付100万円を受け取ったままになり、その契約のために支払った仲介手数料が20万円だった場合、100万円−20万円−50万円=30万円が一時所得の金額で、他の所得と合計されるのはその2分の1の15万円です。ほかに一時所得がある場合は特別控除を合わせて計算するなど、実際の申告は状況によって変わります。ここで示したのは一般情報としての計算の考え方で、申告の要否や金額は税務署や税理士に確認してください。
解約の話が出たときの手順と、市内での相談先
解約の話が出たときは、慌てて返事をせず、次の順で進めると整理しやすくなります。①売買契約書と重要事項説明書を手元に用意し、手付の額、手付解除の期限、ローン特約、違約金の条項を読み返す、②相手からの申し出が、どの条項に基づくものかを書面で確認する、③自分側の準備がどこまで進んでいるか(引越し、抵当権の抹消の準備、住み替え先の契約など)を時系列で書き出す、④仲介する不動産会社に経緯を共有し、必要なら弁護士に相談する、⑤合意できたら、解除の内容と金銭の受け渡しを書面に残す、です。
抵当権の抹消や住み替え先の購入など、ほかの手続きと連動している場合は、司法書士や金融機関にも早めに連絡し、予定を止めるのか続けるのかを決めておくと混乱が少なくなります。
岡山市では、市の消費生活センターが、消費者と事業者の間の契約トラブルなどの相談を受け付けています。市の案内では、相談は主に市内在住の人が対象で、個人間のトラブルや事業者間の相談は対象外とされています。そのため、買主との間の手付の争いそのものではなく、不動産会社との契約や説明をめぐる困りごとがあるときの相談先として考えるとよいでしょう。受付方法や時間は岡山市の公式サイトで確認できます。倉敷市や岡山県の相談窓口は、それぞれの公式サイトで確認してください。
- 売買契約書と重要事項説明書を手元に用意した
- 手付の額と手付解除の期限の日付を確認した
- ローン特約の有無と条件・期限を確認した
- 違約金の条項の内容を確認した
- 相手の申し出がどの条項によるものか書面で確認した
- 自分側の準備(引越し・抵当権の抹消・住み替え先の契約)の進み具合を書き出した
- 仲介会社に経緯を共有し、必要に応じて弁護士・税理士に相談した
- 解除の内容と金銭の受け渡しを書面に残した
トリプルギブへのご相談
株式会社トリプルギブは岡山市南区福吉町を拠点に、岡山市・倉敷市・瀬戸内市を中心とした不動産の売買・仲介を行っています。売却のご相談では、物件の調査をもとに根拠のある査定をお出しし、売却方針を明確にしたうえで仲介か買取かを確定させます。
売買契約の前には、手付の額や手付解除の期限、ローン特約の内容など、売主として確認しておきたい条項を一緒に整理し、住み替えの日程と無理なく合うかを確認します。法的な判断が必要な場面では弁護士へ、税金の判断が必要な場面では税理士への相談をおすすめしています。契約後に買主から解約の申し出があった場合や、売主側の事情で解約を考えざるを得なくなった場合も、契約書の条項を一緒に読み返し、どの段階で誰に相談すべきかを整理するお手伝いをします。
公式サイトのCASEには、これまでの取引実績を掲載しています。対応できるかどうかは物件ごとに確認させていただきます。
よくある質問
Q. 手付の金額は売主が自由に決めてよいのですか?
個人が売主の場合、民法には手付の上限の定めはなく、買主との合意で決めます。宅建業法第39条の「代金の10分の2まで」という上限は、不動産会社が自ら売主となる場合の規定です。ただし手付が少なすぎると、買主が気軽に手付解除しやすくなり、多すぎると売主から解約したいときの倍返しの負担が重くなります。住み替えの予定なども踏まえて仲介会社と相談して決めましょう。
Q. 手付解除の期限を過ぎてから、買主が解約したいと言ってきました。
契約書で手付解除の期限を定めている場合、期限後は手付解除ではなく、違約金の条項や合意による解除など別の扱いになるのが通常です。どの扱いになるかは契約書の文言と事情によるため、すぐに承諾も拒否もせず、申し出の内容を書面で受け取り、仲介会社を通じて確認しましょう。金額の争いになりそうなときは弁護士に相談してください。
Q. 売主が手付解除をする場合、仲介手数料は払う必要がありますか?
仲介の報酬がどの時点で発生し、契約が解除されたときにどう扱うかは、売主と不動産会社の間の媒介契約の定めによります。一律の答えはないため、媒介契約書の報酬に関する条項を確認し、解約を決める前に不動産会社に扱いを確認しておきましょう。倍返しの資金に加えて費用がかかるかどうかで、解約するかどうかの判断が変わることもあります。
Q. 受け取った手付は、引渡しまで使わない方がよいのでしょうか?
法律で使い道が制限されているわけではありませんが、手付解除の期限が過ぎるまでは、売主から解約する場合の倍返しや、ローン特約による解除で手付を返す可能性があります。住み替え先の頭金などに充てる予定がある場合は、契約書の解除の条項と期限を確認したうえで、資金計画に余裕を持たせておくと安心です。
この記事は一般情報です。法律・税金・相続・登記・住宅ローン等の個別案件は、税理士、司法書士、弁護士、金融機関などへ確認してください。
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